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【学生広報サポーターによる「わかりやすい」研究紹介】情報科学研究科・高橋助教

「学生広報サポーターによる『わかりやすい』研究紹介」は、学生が教員の研究を取材し、学生自身の言葉で説明し伝えることで、その研究内容をより「わかりやすく」紹介してもらうという企画です。

今回は、学生広報サポーターの舟山理さん(情報科学部システム工学科2年)が情報科学研究科の高橋雄三助教を取材した記事を紹介します。

合理的に考えよう。工場に置くべき「イス」のデザイン~

本学情報科学研究科の高橋雄三助教は、人間工学を専門として研究をしています。人間工学は英語で“Ergonomics”といい、機械や道具、環境などを人間の使いやすいようにデザインする学問です。そもそもなぜ人間工学が生まれたのでしょうか。産業革命以降、機械は急速に進歩を遂げ、さまざまな道具などが大量生産されるようになりました。しかし、多くの道具は、「作りやすさ」や「コスト」を考えて、作り手側の都合でたいてい作られています。どうにかしてその差を縮めなければいけない。そこで、それまでの設計概念を見直し、利用者である「人間」に対して工学的に「適切」な設計をしよう、ということを原点にしています。人間の視覚、関節や自律神経などの生理学的・解剖学的側面をはじめ、心理的側面などからも多角的に検討された設計というのが、人間工学の目指すべき姿です。

高橋先生の取り組んでいる研究の一つに、働きやすさを促進する「イス」というものがあります。日本では、生産性の向上と、働く人たちの安全や健康の維持・増進の両方を達成しなければなりません。そこで、人間工学の側面から「イス」を改良することによって、この問題に一石を投じようという研究です。

私たちが何気なく選択する姿勢の中で、もっとも不自然な(負担の強い)姿勢はどのようなものでしょう?実は、椅子座位がもっとも体に負担がかかる姿勢なのです。一方、立つ姿勢は背骨の湾曲がもっとも自然で、無理のない姿勢となります。では、工場などで、常に立ちながら作業を行うことを想像してみてください。例えば半導体や時計などの精密機器を組み立てる際、立ったままで行う作業は非常にやりにくいのではないでしょうか。立つという姿勢は、立つために体のあちらこちらを緊張させる必要があるので、私たちの筋肉の多くは仕事を上手くやるために使うよりも、姿勢を維持することに使われてしまいます。それでは作業に支障が生じてしまいます。そこで、「自然な」姿勢を維持しつつも、作業に必要な動作は確実にできる、立ったまま使える「イス」(または「イス」と同じ機能を持つ補助具)とはどういうものだろうか、という疑問が生まれます。この疑問を解決するために、高橋先生は表面筋電位測定や3次元動作解析などの手法を駆使した実験を何度も行い、被験者から収集したデータを緻密に分析して、図のような仮説に至ったそうです。

データを集め、解析し、それによって新たな仮説を組み立てていく。お話を伺ったところ、「人間工学的にモノをデザインする」という作業には、未知なる部分の多い人間を「知る」という作業を原点として、さまざまな実験やデータを積み重ねていくという気の長い作業が必要であることが分かりました。しかし、こうした目には付きにくい研究が、日本、ひいては世界の産業を影で支える原動力になっているのではないでしょうか。人間を知り、それをデザインで表現したいという方は、ぜひ人間工学の門を叩いてみてください。 

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