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小杉拓己さん・中原二郎さん

「この人と話したい」は、活躍している学生・卒業生・教職員などから、学長が話を聞いてみたい人を学長室にお招きし、対談する企画です。
今回は、本年4月に開設した平和学研究科の1期生である小杉拓己さんと中原二郎さんにお話を伺いました。また、同じく本年4月に着任した大芝亮・平和学研究科長にもお越しいただきました。

若林学長 初めまして。この4月に学長に就任した若林です。前学長の青木先生がこの「学長対談・この人と話したい」という学生との対談企画をやっていらした時期があり、それを受け継いだわけですが、初回には今年4月に新設された平和学研究科に入学された学生さんたちを選ばせてもらいました。大芝研究科長もこの4月に赴任されたので、今日はゲストということでお招きしました。さっそくですが、お二人はどうして本学を選んだのでしょうか。


小杉 大学の卒業論文を執筆する過程で、さまざまな先生の論文を読みました。その中で、吉川先生(前広島平和研究所長)の本や論文を参考にしたのですが、吉川先生の著書の中でよく出てくる「平和とは何か」、「誰のための平和なのか」という問いに、新しさを感じ、吉川先生のいらっしゃるこの大学に興味を持ちました。ほかにもロシア・ユーラシア地域研究や国際法を専門とする先生方がいらっしゃることも大きいです。私の研究対象はロシア・ユーラシア地域であり、日本ではその分野の研究が進んでいるといわれていますが、その中でもこの研究科に入学したのは、地域研究、国際法、国際政治理論を学際的、多角的に学べるからです。


若林 小杉さんはユーラシア、特にウクライナに興味があるんですよね。

小杉さん

小杉さん

小杉 ロシア・ウクライナは近年、クリミア情勢のことで注目されています。私は北方領土問題に関心があるので、自分にとってロシアは身近な存在でした。ですが、ほかの人にとっては、北海道の人も含めて、ロシアは地理的には近くても心理的には遠い国だと思われていることに疑問を持つとともに、興味を持ちました。それで、学部1年生の時に北方四島のうち択捉島へビザなし交流で赴き、2年生の時にも調査のために根室を訪問しました。そうした経験を経て、国際関係の中でのロシアという存在に興味を持つようになり、中でも、クリミアなどロシアが影響力を持つ地域に興味を持ちました。3年生の時に旧ソ連領域内の未承認国家について研究し、卒論ではクリミアについて、国際法の視点を取り入れながら論じました。その延長線で、修士課程では国際法の視点を絡めながら既存の問題を問い直していきたいと考えました。


若林 ロシアには政治的な部分から興味を持ったんですね。

小杉 ロシアは知っているようで知らない国なので、知れば知るほど面白い。先行研究でも、さまざまな視点から研究がなされていて、そこに自分が新たな視点を入れられないかという思いもあるのですが、その手段として国際法が適当であると考えました。


大芝研究科長 平和学研究科の初年度の入学者は、いい二人がそろったと思っています。小杉さんが関心を持っているロシア研究ではロシア語の習得が必要です。小杉さんはこの点にきちんと取り組んでいます。また、国際政治学を専門としながら国際法も学ぶということは、いうまでもなく大変重要なことです。両者は同じ「国際」とはいえ違うところは多々あり、勉強は大変だと思いますが、よく頑張っていると聞いています。


若林 中原さんは、小杉さんとは全然違う経歴を持っていますね。


中原 私は広島市東区出身で、この大学の広島平和研究所のことは知っていたのですが、その大学に、大学院では珍しい平和学研究科ができるということで、関心を持ち、入学しました。私はもともと、学長と同じ情報分野の人間で、システムエンジニアとして8年間、広島の民間企業で働きました。それからJICA(独立行政法人国際協力機構)の青年海外協力隊としてパプアニューギニアに2年間行って、そこで世界観が変わりました。


若林 民間企業を経て青年海外協力隊に入ったのですね。


中原 入社した年が、バブルがはじけた直後で、景気による業界の浮き沈みや企業間の競争が激しい中で働く中で、何のために、誰のためにシステムを作っているのか、と考えるようになりました。そんな時に兄が青年海外協力隊でインドネシアに赴任していて、現地での活動状況などの話を聞いて興味を持ち、自分も挑戦してみようと思いました。


若林 なるほど。それから、いろいろな国に赴任されたんですか。


中原 最初がパプアニューギニア。その次は、マラウィ、以降はJICA事務所での仕事で、シリア、イエメン、南太平洋のソロモン諸島(ガダルカナル島)、スリランカ、ラオス…。


若林 そこから本学入学に至る動機は何だったんですか。

中原さん

中原さん

中原 今まで行った国で一番好きなのはシリアで、内戦が終わったら復興支援を行いたいとの思いがあるのですが、シリアで将来、争った人々が憎しみを超えて何ができるのか考えています。そのヒントを探るべく、今から2年前にボスニア・ヘルツェゴビナへ行き、ボシュニャク人、セルビア人の方たちに話を聞く機会を持ちました。紛争などで強く憎しみ合っていた人たちがどうやって和解していけるのか、その可能性はあるのかを知りたくて、直接話を伺いたいと思い、6人くらいインタビューをさせてもらいました。すると、現地でないと得られない話もあり、拾い上げられない声を無視して特定の人たちだけに援助や同情を送り続けると、別の憎しみを生むことにつながる場合もあると感じました。そして去年の今頃、自分の任期が終わるタイミングで地元広島に平和学研究科ができると知り、より具体的に平和構築等について学べるのではと考え、入学したいと思いました。

若林 二人は実際の問題に対する解決策を見つけたいという点で共通していますね。小杉さんはどちらかというと学問的な興味から入っていって、中原さんはその逆で。そんな二人がそろってここに来たというのは面白いですね。


大芝 学部卒生と社会人という二人が同じ学年にいるのは、私は非常に好ましいことと思っています。経歴の全然違う二人が同じ授業を履修してディスカッションするというのは、異文化接触のようなものでお互いに学ぶところは大きいと思います。同時に、二人に共通するものを感じるところもあります。例えば紛争の後の和解について議論すると、二人とも世代による相違に注目するんです。中原さんが赴任した紛争地にしても、小杉さんが関心を持つ北方領土にしても、紛争当事者世代やかつてそこに住んでいた世代と、次の世代(2世)や3世の感覚が違ってくることは予想できるとしても、具体的にどのように異なっているかをヒアリングしています。私は、「世代」という要因に焦点を当てた新しい議論が生まれるんではないかと、期待しています。


若林 二人は、お互いにどんな印象を持っていますか。


小杉 オリエンテーションの後で、一緒にお昼を食べに行ったと記憶しているんですが、その時に中原さんが「君は、僕の年齢の半分以下で…」という話をして。ある意味、大学院らしくていいなと思いました。実際授業が始まると、中原さんから学ぶところがあると感じます。学部からそのまま進学した人だと、学部の延長線上で理論を詰めていく発想になりそうですが、バックグラウンドなどが違う人が集うと同じ理論の話をしていても、そこは現場から見ると違うとか、現実味のある指摘が出てきて、そこではっと気付かされることもあります。なので、中原さんがいることで、いつも現場感覚から理論的な発想を修正していただいていると感じます。


中原 JICA時代に仕事で接する協力隊員は、若くて21歳からいて、平均すると30歳くらいの人たちでした。それと比べると小杉さんは最年少に近いほうですが、とてもしっかりしているという印象です。彼の作ってくるレジュメは文献をしっかり読み込んでいるなという印象で、集中力と洞察力と読解力を兼ね備えていて尊敬します。自分がついていけるかなと思うくらいとても優秀な方で、引っ張ってもらっている感じです。


若林 大芝先生から見て、全くタイプの違う二人はどんな印象ですか。


大芝 授業では、中原さんには具体的な事例を聞きます。すると、JICAでの経験が豊富なだけあって、さすがに次々と事例の話をしてくれます。小杉さんは、学部時代に理論をしっかり学んできていることがわかります。論文を読みこなし、概念の有効性についても冷静に見ています。二人はとても良い組み合わせだと思います。


若林 そうですね。社会人と学生がいて、ある意味で理想的な組み合わせになりましたね。


大芝 大学院の教育としては、やっぱり教員との関係だけでなく、大学院生同士の横のつながりも大変重要です。留学生も入ってくれば、さらに良いものになると思います。

若林学長

若林学長

若林 今年から平和学研究科の留学生入試も始めますしね。平和学研究科の授業そのものについてはどんな印象をお持ちですか。


小杉 自分の学びたい学問があった上で入学してきましたが、カリキュラムの構成から自分の専門領域以外の授業も受けています。例えば今期は直野先生の「被爆の記憶」という授業を受けています。広島ならではの学問で、自分の専門領域にもつながるところがありますね。授業では、「広島=平和」という概念自体は、決して自明のものではなく作られたものだという議論をしています。


若林 「被爆者」の定義もそうかもしれませんね。

小杉 そのとおりだと思います。例えばインド・パキスタン間の紛争の事例では、日本から被爆者や平和を訴える団体が現地へ行って、核は絶対ダメだという話をすると、「あなたたちはアメリカに核爆弾を落とされてひどい目に遭っているのに、同じ悲劇が起こらないために、なぜ核武装して対抗しようと思わないんだ」と言われたということを聞いたことがあります。広島の体験が平和に結び付くという発想は、当然のことのように考えられがちですが、そうではなくて、広島ならではのロジックとか歴史的背景などが組み合わさって、広島だけでなく日本のナショナリズムにくっついていったものなんですね。(自分が研究している)ロシアだと、ナチス・ドイツとのレニングラード包囲戦が一つの例です。プーチンの母親はレニングラード包囲戦を生き延びているのですが、プーチンはメディアなどを通じてたびたびレニングラード包囲戦を取り上げていて、現在のロシアのアイデンティティに結び付く記憶になっているんですね。そういう事例にも、被爆の記憶の形成や表象の議論が結び付きます。違うディシプリンなんだけれども、自分の興味・関心にも援用でき、自分の学びとして吸収できます。


若林 広島についての学びは、やはり広島ならではですよね。


中原 私は、ルワンダとか、チェチェンとか、ボスニアとか、個々の紛争事案についての知識はあったのですが、紛争事案間の相関性や背景にある歴史など、例えば吉川先生の授業で取り上げられる安全保障論や大芝先生のグローバル・ガヴァナンス論などを通じて、広い視野から見る方法を学べています。NGOについても、近年いかにNGOが活発化し影響力を持つようになってきたのかを見ることで、今後の活動についての新しい発想にもつながります。それから、今ジェイコブズ先生の全研究科共通科目「ヒロシマと核の時代」を取っているんですが、そこで学ぶ視点も参考になります。私は広島出身で、子どもの頃から平和教育といえば、広島の経験を中心に被爆者や原爆の問題を考える教育を受けます。ですが、ジェイコブズ先生の授業では、例えば韓国人被爆者とか世界の核実験による被害者「グローバル・ヒバクシャ」とか、彼らが生まれることになった世界の構造や歴史的経緯について学べます。そういうふうに、単に広島の視点だけではなく、より多角的に平和問題を見ることを学べるのは非常に有意義だと思います。


若林 平和学研究科のカリキュラムは広島らしい、同時に世界にも通じる要素もあるといえますね。

大芝先生

大芝研究科長

大芝 それが我々の平和学研究科の特徴だと思います。平和学は国内外のさまざまな大学・大学院で展開していますが、広島発の平和学は、広島の記憶・体験をまず学ぶ。次に平和学というのは、例えば社会学や憲法学、近現代歴史学など、いろいろな学問分野から学際的に成り立っていますから、小杉さんの場合であれば国際政治や国際法、中原さんの場合は復興支援・平和構築といった、自分の専門分野を学ぶ。自分の専門領域での理論・概念を用いてヒロシマの問題を考えたり、あるいは逆にヒロシマの問題を考察することにより、自分の専門分野における従来の概念を見直したりする。さらに、世界が遭遇している現実の諸問題について、今述べたような理論や概念を用いて、解決方法を見つける。こういう3層構造で我々のカリキュラムは成り立っています。

小杉 国際政治学の観点から物事を見ると、リアリズムの発想になりがちだと思うんです。結局パワーポリティクスで世界は動いている、となって、悲観しがち。ですが平和学では、「現実はこうだけど、どうすれば平和につながるのか」と常に自分に自制を求めながら、目指すべきものは平和であり、そしてその平和とは何なのかというのを都度想起しながら学んでいくという、そういった良さがあると思います。そういう平和学を広島で学ぶことの意味を私自身、問い直しているところです。「平和」の意味を考え直す研究をする中で、広島自体を問い直すという意味でも、ここで学ぶ価値があるかなと思っています。既定の「広島=平和」をなぞったり、平和を学ぶためには広島で学ばなきゃだめだ、と考えるのではなくて、なぜ「広島=平和」なのかを問い直すという…。


若林 それを問い直すためにも広島で学ぶことに意味があるかもしれませんね。


小杉 広島はいろんな平和に関する観点が混ざっている街だと思います。広島という街が平和を考えるのにふさわしい街なのか、自分の中で批判的に考えるためにも、広島市立大学の平和学研究科で学ぶ意義があるのかなと思います。広島出身の人もそうでない人も、いろいろな視点を持つ人に来て自分の視点の問い直しをしてほしいですね。


中原 平和というのは何か一つのことをすれば達成できるものではないですし、ある人にとっての平和は別の人には平和ではない場合もありますよね。そういう多様な視点をどう現実世界での実践につなげていくかについて学び考えるのに、平和学研究科は良い環境だと思います。支援も充実しているし、カリキュラムも本当に良いと思います。

集合写真。左から若林学長、小杉さん、中原さん、大芝先生

大芝 教育研究において多様な視点を確保しておくことは極めて大切なことだと思います。平和に対する多様な視点と照らし合わせながら、世界の人々にとり意義のある平和学を構築していきたいと思っています。


若林 平和学研究科1期生のお二人には、ぜひ頑張っていただきたいと思います。期待しています。今日はありがとうございました。

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