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原田 武さん
「この人と話したい」は、活躍している学生・卒業生・教職員から、学長が話を聞いてみたい人を学長室にお招きし対談する企画です。随時掲載しますので、ぜひご期待ください。さて今回は、「Tokyo Midtown Award 2014」のアート部門でグランプリを受賞した本学芸術学部銅蟲(どうちゅう)研究員[芸術学研究科(博士前期課程)造形計画専攻平成20年度修了生]の原田武さんにお話を伺いました。(対談日:2014年10月29日)
学長 直接お祝いを申し上げたいと思い、学長室にお越しいただきました。グランプリ受賞、おめでとうございます。これは、アート部門とデザイン部門と2部門あるのですよね。アート部門だけでも400件くらい応募があったと聞きました。
原田さん(以下敬称略) そうですね。360件くらいでした。
学長 その中でグランプリというのはすごいですね。芸術学部の先生方にもお聞きしたのですが、賞金の額もですが、グランプリというのは簡単にとれる賞ではないということでした。ところで、今回から制作のお題がなくなったと聞いたのですが、その点についてどうでしたか?やりやすかったですか、やりにくかったですか?
原田 テーマに合わせてものを創る方ではなく、自分の中のテーマでものを創りたい方なのでやりやすかったです。
学長 ちょっと作品の写真を見せていただきながらお話を伺ってもいいですか?
原田 (写真を取り出す)
学長 これは全部金属ですか。トカゲもトンボも、ブロックも含めて、全部金属というのはすごいですね。金属とは全く分かりませんね。こうした発想はどこから出てくるのですか?
原田 身近にあるものを金属に置き換えたいということです。明治時代にも似たようなものがあるんですが、身近にあるものを作品にされている。江戸末期・明治・大正の金工が栄えた時期が、芸術的じゃなく、技術的に栄えたのですが、廃刀令があってその後にちょっと技術的に引き継がれた時期があって、以降モチーフにされたのが身近にあるものです。果物とか。こうした時期のものが好きなので、こうした身近にあるもので再現したかったです。
『群雄割拠(撮影:谷裕文/田辺康孝)』
学長 でも、こうしたものを、ブロックの塀も含めて金属というのは発想がすごいですね。一部を作るというのはあるかもしれませんが、これほどのもの全部を金属で作るっていうのは考えつかない。どのくらいの期間かかりましたか?制作をする中で、ハンマーで打ったりいろいろあると思いますが、一番苦労したところはどんなところですか?
原田 制作期間は頑張って2カ月くらいです。コンクリートを1つずつ作って組んでいくんですが、寸法をきれいにしておかないと傾いてしまう。そこが難しいです。トカゲとか単体で見せるものは逃げることができるのですが、組んで合わせるものは難しいです。
学長 原田さんの作品としては、今までは銅蟲を見ていたのですが、作風としては今回のようなものが主体なのでしょうか?
原田 使う技術が違っていて、今回のものは再現する技術、銅蟲はちゃんと作る技術が必要で、両方できないと金工では難しいのかなと思います。きれいに作るのは工業的にも可能なことが多いので、今回のようなものは手で作っていく意味があります。
学長 作品というものと、日常に使えるものという意識はあるのですか。工芸品でありながらも日常使えるものとか、そういう意識はありますか?
原田 ニーズがあるかどうかは分かりませんが、知名度としてはそこまでではない、金属工芸は、メジャーでないので、まずは見てもらう機会を持ってもらって、今回のような作品でもっとメジャーになることが必要かなと思います。メジャーにしていって、なぜ良いかを知っていってもらいたいです。昔は金属工芸の作品が高級品だったので、庶民の手に入るものでははかった。それで身近でないんです。
学長 そういう意味では、知ってもらうことがまず重要なのですね?
原田 見てもらうには知識を増やしてもらうことも必要です。そういうのも広げていけるといいのですが。
学長 いろいろな芸術の中でそれぞれの分野の難しさがあると思いますが、金工の醍醐味っていうのかな。ここが気持ちいいんだというのはどこにあるのでしょうか?
原田 金属加工しているのが楽しいし、ものができ上がっていくのも楽しい。それ以上に、見てもらって、使ってもらうとうれしいですね。
学長 使ってもらうのもいいんですね。そういえば、以前、大学へのゲスト用に銅蟲でペーパーナイフを作っていただいたのですが、所有欲をそそるっていうのか、身近に持っていたいと感じるようなものでした。
原田 手作りなので特別なものですね。まず知ってもらって、そのすごさをもっと知ってもらいたいです。そのような感覚を皆さんが持っていただくといいのですが…。
学長 今、金工作家を目指している後輩たちにアドバイスをするとしたらどういったことがありますか?
原田 工芸の分野は芽が出るのに時間がかかるので、大学の時間だけでは難しいのもあるんですが、だからこそ、ころころいろんなことをやるんじゃなく、自分の信じたやり方や作りたいものの制作を、自信を持って続けていくことが大切かなと思います。
学長 仕込みであるとか下積みが長いのですね。でも、金工作家として知られるようになってからも大変なのでしょうね。
原田 そうですね。鍛金の場合、道具をそろえたり、軌道に乗るまでがなかなか大変ですね。
学長 ちょうどそうしたことでお聞きしたいことがあるのですが、芸術出身の人材がどうしたら広島に残れるのかということ、こういうことについてお話を聞かせてほしいと思います。広島に根付いて作家一本で生活していくことはなかなか難しいとしても、少なくとも創作活動は続けてほしいと思っています。そうした点について、広島で創作や作家活動を続けていく上で、こういう仕組みがあればいいというようなものがあれば教えてほしいのですが。
原田 創作活動については、においや音の問題があるので地方の方がやりやすいですね。工房を持つだけでも大変なので、もっと情報とかがあて、それが使えるとやりやすいのかなと思います。理想としては、もっと人数をかけて、チームとしてやりたいです。本来、工芸というのは分業制なので、熟練者の集まりなのですが、近年は一人ですべてやるようになっています。他都市の漆作家の方は、チームを組んでものすごいクオリティーのものを創って、グループ名で活動しているところもあります。そうした活動ができるといいですね。
学長 土日に作家に戻れる場所があるといいですね。そこで卒業生や修了生たちがチームになれるとか。例えば、廃校になった学校で土日工房みたいな活動ができるといいですね。今日はお時間をとっていただきありがとうございました。大学としても誇りに思っています。今後ともよろしくお願いします。
【原田武氏プロフィール】
略 歴 1984年 愛知県生まれ
2009年 広島市立大学大学院芸術学部造形計画専攻金属造形分野 修了
2009年 広島市立大学研究生
2010年 広島市立大学芸術学部協力研究員(~2010年8月)
現在 広島市立大学銅蟲研究員
受賞歴 2005年 第20回国民文化祭 ふくい 2005 美術展 佳作 (福井市美術館/福井)
2009年 富士火災アートスペース 2009 受賞 (関西国際空港/大阪)
2009年 第四十八回北陸中日美術展 入選 (金沢21世紀美術館/金沢)
2011年 広島KAZARU展 奨励賞・テーマ賞 (瀬山陽史跡資料館/広島)
2011年 EAST-WEST Art Award Competition 2011 Encouragement Prize
(La galleria/ロンドン)
2012年 EAST-WEST Art Award Competition 2012 入選 (La galleria/ロンドン)
2013年 Recover & Rebuild Japanese art & design 第1回東日本大震災チャリティ展
「Monster展」 入選 (渋谷ヒカリエ/東京)
2013年 第8回 TAGBOAT AWARD 入選 (世田谷ものづくり学校/東京)
2013年 次世代工芸展 入選 (京都市立美術館/京都)
2014年 Tokyo Midtown Award 2014 グランプリ (東京ミッドタウン/東京)