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参加学生インタビュー(「宮島ろくろプロジェクト」 下村祐介さん)

今回は「宮島ろくろプロジェクト」に参加した、芸術学研究科博士後期課程在籍中の下村祐介さんインタビューを行いました。下村さんの作品は、2023年に第49回宮島特産品振興大会において「宮島ブランド大賞(広島県知事賞)」を受賞しています。

  • 作業中の下村さん

―芸術分野にすすんだきっかけ

小さいころからものづくりが好きでした。高校の時、勉強が苦手なこともあって、大学には行かなくていいと思っていたのです。しかし、母親の紹介もあり、芸術大学や美術系の試験に向けた美術予備校(いわゆる画塾)に入塾したところ、その塾長が刺激的な人で、芸術って面白いな、ものづくりって面白いなと気づいて、これは大学に行くしかない、とことん突き詰めたいと思いました。

―幼少期

竹馬や弓矢とかですかね。三重が実家なんですけど、田舎なので、竹藪が近くにいっぱいありました。祖父と一緒に竹取りに行ったり、針がねを使って竹馬を作ったりしました。弓矢も、竹を割って作りました。水糸を使って弓を張り、矢は細い竹で作りました。弓矢で缶を倒して遊んでいましたね。また、レゴブロックが好きで、誕生日プレゼントにはレゴばかり頼んでいました。幼稚園、小学校では、図工の時間が好きで、休み時間まで絵をかいていました。牛乳パックで工作もしたし、物作りや絵をかくことに夢中でした。  

―今回の宮島の特産品振興大会に参加した経緯

COC+プロジェクト(注)に2年生から参加していました。4年次に、宮島ろくろを教えてくださっている伝統工芸士の藤本悟先生からそろそろ出展してみないかと言っていただき、2019年の大会に応募しました。宮島ろくろには木目を生かすという特徴があるので、それを生かして、温かい感じがするランプの作品を作りました。 そのまま廿日市市と宮島細工共同組合が協力しておこなっている「宮島ロクロ後継者育成事業」 に参加して以来、研修生という立場で大会に出品しています。

(注)【COC+プロジェクト】「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業」で、地方への人の集積を目的に、大学・自治体・企業等が協働して、地域に定住し、貢献していく人材を育成する取組への文部科学省の補助事業。広島市立大学では地域志向型の教育カリキュラムの充実やアート教育プロジェクト等を通して地域振興に貢献する活動等を行っていた。

COC+プロジェクト詳細はこちら

下村さんの作品momiji clock「宮島ブランド大賞(広島県知事賞)」に選ばれた

「momiji clock」

宮島ろくろを用いて制作された掛け時計で、

欠けた部分があるのが特徴的だ

―今回の大会で大変だったこと

作品の欠けた形を回転させて削る作業が大変でした。面が欠けていると、引っかかりやすい(ろくろを回して作る際にすべての面に均等に刃が当たらなくなってしまうため)ので。形にしようと思ったきっかけは、4年次の卒業制作で、欠けたもみじの作品を作ったことです。ろくろは回転させて作るので、誰が作っても丸くなる。すると似たようなものはいっぱいあります。日本中、それこそ世界中に。なので一点もの感、その木でしか作れないものを作りたいと思いました。

―宮島ろくろと広島市立大学のかかわり

デザイン工芸学科の漆造形分野では、3年生のカリキュラムの一環として宮島ろくろの実習(地域展開型芸術プロジェクト)があります。そして、特にろくろを深くやりたいという学生たちが、実習後の夏休みに宮島に習いに行くという形です。僕とか教員が刃物打ち(刃物をつくるところ)という最初の導入の部分は面倒を見て、刃物を仕上げて作品を削り始めるという肝心なところを宮島に行って習ってもらいます。漆造形分野には、螺鈿(らでん)のような細かい作業が好きだったり、塗りが好きだったりいろんな学生がいますが、楽しんでくれた学生も多かったです。

―最近の活動

いま開催している「花と器」(2024年2月1日から24日まで書肆翠(広島市中区十日市町)で開催した、辻陽水/下村祐介/平尾祐里菜の3人によるグループ展)の中で土日に開いているワークショップはすごく人気で、全部予約が埋まってしまっています。参加者は女性が圧倒的に多くて、借りているギャラリー書肆翠の常連さんも来てくれています。2023年の市大の大学祭でもワークショップを開いたんですが、その時も女性が多かったです。人気なのは一輪挿しの制作でした。

 伝統的な宮島ろくろといえばお椀やお盆が多いというが、下村さんのワークショップでは一輪挿しとコースターを作ることができる。下村さんなりの宮島ろくろのPRの一つがこのワークショップだが、宮島ろくろの「伝統」をどこまで引き継いでいけるのか懸念も示していた。

職人さんからしたら、これ(ワークショップで制作する木工ろくろの作品)を宮島ろくろと呼んだら何でもありになるんじゃないか、と思われるかもしれません。なので僕の中では、木の良さを生かす、日用品を作るっていうところからは絶対に外さないようにしています。宮島彫りが「飾り」というニュアンスが強いので、宮島彫りと対比する意味もありますね。 藤本先生も日用品ということにこだわられているので。

―大学生活を振り返って

(藤本先生の作品の写真を見ながら)学部4年時は、卒業制作や、COC+アートプロジェクトで行われた宮島ろくろの展示のためにずっと大学にいて、時間がある限り木工室に居座っていました。その頃に藤本先生が藤色を塗りたいって言われて、僕が漆造形分野だったのもあって、いろんな作家さんの展示会を見に行って、学生の身分を乱用して(笑)なんでも質問して色漆の研究をしました。それを藤本先生に伝えて完成に至った作品です。基本的にずっと先生に教えてもらっているけれど、影響を互いに与えられているかもしれません。

 ―今後の活動

宮島ろくろも伝統工芸の一つなので、多くの伝統工芸に言えることですが、外部からの新規参入が難しいです。なので、まずは 知っていただくことが一番大事だと思っています。Youtubeメイキングの動画や、コンセプトムービーを載せています。これまで宮島ろくろに興味がなかった人たちにも魅力を知ってもらえたら嬉しく思います。2024年4月から大学に在籍しつつ、地域おこし協力隊として廿日市市役所と宮島伝統産業会館に勤務し、宮島ろくろをはじめとする、宮島細工のPRや展覧会等の企画運営、伝統技術の継承を行う予定です。そして任期後に宮島で工房を構えるのが将来の目標です。 

 

下村祐介さんプロフィール

・略歴

三重県出身 広島市立大学芸術学部卒業

2022年 広島市立大学記念品 「楓拭漆銘々皿」を制作

・受賞歴

2019年 第46回 宮島特産品振興大会「銅賞」受賞 

2021年 第47回 「宮島ブランド大賞(県知事賞)」受賞 

2022年 第48回 「宮島商工会長賞」受賞 

2023年 第49回 「宮島ブランド大賞(県知事賞)」受賞 

・その他

 

宮島ろくろとは

宮島ろくろ作品

江戸時代の終わり頃に、厳島神社建設のため鎌倉や京都から宮大工や指物師が招かれた際に伝わった技術が始まりとされています。広島の豊富な森林資源や木材を使い、古くから宮島内で盆や茶道具、菓子器などが作られ、日用品として、宮島を訪れる参拝客に向けたお土産物として親しまれてきました。これらの製品は、回転する木材に鉋(かんな)と呼ばれる刃物を当て、木材を削る円運動を利用して製作されたものです。そして、派手な漆塗りや加飾をせず自然が育んだ木の本来の持ち味を生かした仕上げや作風が特徴です。

取材・記事作成:石黒七海 藤井美風(学生広報クルー「いちレポ」

地域展開型芸術プロジェクトバナー   

宮島ろくろプロジェクトの取組み

 宮島では、木工芸を中心とした全国に誇れる技術を持つものづくり産業が栄えていましたが、近年、技術の継承が困難となり、産業としての存続が危ぶまれています。その中で本学芸術学部デザイン工芸学科の漆造形分野において、宮島細工(宮島ろくろ)の伝統工芸士藤本悟氏とともに、2006年より技術指導をカリキュラムに取り入れました。また、2016年度より廿日市市と協力しCOC+事業として技能講習も実施しています。

 地域展開型芸術プロジェクト「宮島ろくろプロジェクト」では、地域の環境の中で伝統産業に触れ、基礎的技術を習得する機会を創生することにより、後継者の候補を育成すること、そして新たな展開を生み出すことを目的として活動を行っています。【プロジェクト担当教員 大塚智嗣】

お問い合わせ先

広島市立大学事務局 
教務・学部運営室 学部運営グループ(2024年4月1日より教務・研究支援室 教育研究支援グループから名称変更しました)
電話:082-830-1501
FAX:082-830-1823
E-mail:gakubu&m.hiroshima-cu.ac.jp
(E-mailを送付されるときは、&を@に置き換えて利用してください。)