広島平和研究所

日米の芸術と大衆文化に表れた原爆と核戦争

 

1. プロジェクトの概要

 このプロジェクトでは、原子爆弾に感応して様々な芸術や大衆文化を創作している芸術家及び研究者を紹介する。中心となるテーマは、未来に関する伝統的な概念に対して、原子爆弾が与えた影響、つまり、もしかすると「未来はない」かもしれないのではないか、という考え方である。原子爆弾を表現するこの「暗い穴」に向けて、様々な媒体における芸術家や文化の創作者達がその想像力を投じてきた。私たちは、映画、マンガ、オペラ、小説、消費者向け用品、その他数々の表現媒体が、未来に関する伝統的な考え方の崩壊の中で、新しい可能性をどのように探求してきたのかを考察する。 

 ゴジラが東京湾に持って来たもの、また、映画 『Them!』(邦題:『放射線X』)の中で、巨大蟻の軍団がロサンゼルスの下水管の中からもたらしたもの、それらは、未来へのメッセージであった。原子爆弾で攻撃を受けた場合はいかに生き延びるかを解説した安価なペーパーバック本や政府のパンフレットを読んだ人々は、原子爆弾の後に来る未来について描かれた将来像を目にしてきた。文化が表現する幅広い分野を詳細に考察しながら、このプロジェクトでは、大衆文化や芸術が地球規模の核戦争によって引き起こされる「この世の終わり」、そして「まだ見ぬ世界」をどのように垣間見てきたかを検証していく。 

 このプロジェクトでは、芸術家、分析家及び歴史家達がそれぞれの作品を議論しあい、20世紀後半において、人類の未来の上にのしかかるキノコ雲によって喚起された多様な芸術創作について探求する。1950年代半ばの日米両国のSF映画に見られる核実験の影響に始まり、「スーパーフラット」芸術(※)に具現化された爆発力についての社会的な議論にいたるまで、原子爆弾は、芸術や大衆文化に深い影響を与えてきた。核時代後の未来に関するこれらの芸術作品は、世界中の人々に強力な影響を与えてきており、また、これからも地球上の人間の未来についての人々の意識を形づくり続けていくであろう。
 現代社会における文化的表現の役割について議論することが、このプロジェクトの核心となる。大衆文化や芸術は、現代のメディア時代において、文化表現の主要な媒体となっている。遺伝子学者が核放射能による遺伝子変異の危険性をどのように解説しようと、人々はそれを理解できなかったであろうが、人間を破壊する長さ15メートルの巨大なキリギリスの姿は簡単に理解できたはずだ。このような形態の文化表現は、複雑なメッセージを、すばやく、かつ感情的に伝達する能力を備えている。偽りの情報が正しいものとしてニュースの中に混在する今日の社会において、一般大衆の意識を形成し、また、反映するという点において、芸術や大衆文化の役割は軽視されてはならない。文化が表現するその仕組みを解明することは、そうした文化的創作を目にする広範な人々に対して、複雑なメッセージを効果的に伝達する手段を提供することになろう。


(※)スーパーフラット
平板で余白が多く、奥行きに欠け遠近法的な知覚を拒むなど、伝統的な日本画とアニメーションのセル画とに共通して見られる造形上の特徴を抽出した現代美術における概念。

*本プロジェクトの成果は、Robert Jacobs, ed., Filling the Hole in the Nuclear Future: Art and Popular Culture Respond to the Bomb (Lexington Books, 2010) としてまとめられ、出版された。

 

2. プロジェクトの詳細
・実施期間 : 2005年4月~2007年3月
・第1回ワークショップ : 2006年2月15~16日、シカゴ(米国)
・第2回ワークショップ : 2007年2月19~21日、広島

3. プロジェクトメンバー
Mick Broderick マードック大学コミュニケーション学部上級講師/オーストラリア
John Canaday 詩人・研究者/アメリカ
Tom Engelhardt 編集者/アメリカ
Carole Gallagher 写真家/アメリカ
Margot Henriksen ハワイ大学マノア校歴史学部助教授
Judy Hiramoto アーティスト、教師/アメリカ
伊藤憲二  総合研究大学院大学葉山高等研究センター助教授
Jayne Loader 映画制作者・作家
前田稔  アニメーション作家
Jerome Shapiro 研究者
Spencer Weart アメリカ物理学協会物理学史センター長
Robert Jacobs 広島平和研究所講師 (プロジェクトコーディネーター)
田中利幸 広島平和研究所教授 (プロジェクト監督)