広島平和研究所

連続市民講座(2014年度後期)

第一次世界大戦開戦100周年――現代の平和を考えるために

 

 広島平和研究所では、2014年11月21日から12月19日まで広島市まちづくり市民交流プラザにおいて、下記のとおり2014年度後期の連続市民講座を開催しました。

    


■講座名:第一次世界大戦開戦100周年――現代の平和を考えるために

【概要】

  2014年は第一次世界大戦開戦から100周年にあたります。主戦場となったヨーロッパでは大戦を振り返る行事が開催され、第一次世界大戦の歴史的意味や国際政治にもたらした影響について再考する研究も数多く出版されています。大戦終結から100年を迎える2018年まで、こうした傾向が続くことでしょう。

 第一次世界大戦は戦場の兵士のみならず、国民すべてを巻き込んだ総力戦となり、現代戦争の起点となりました。大戦中には兵器の技術革新が進み、毒ガスが使用されるなど、のちの原爆投下にもつながる大量殺戮の時代が始まりました。同時に第一次世界大戦は国際政治に大きな変化をもたらしました。戦争により荒廃したヨーロッパの影響力は低下し、戦勝国となった新興国アメリカや日本が新たに国際政治のなかで力を持ち始め、大戦中にロシア革命が起きてソヴィエト連邦が誕生するなど、20世紀後半の冷戦につながる国際秩序が形成されていきます。また、敗戦国オーストリア・ハンガリー帝国やオスマン帝国の解体によって誕生した東欧や中東の諸国家は、21世紀の今日に至るまで紛争が多発する地域となっています。

 総力戦の経験により、人類は平和への道筋を模索することになりました。大戦後に登場した国際連盟に代表される集団安全保障体制や戦争の一般的な違法化を目指す不戦条約、平和運動の大衆化についての議論は、現在の平和論の土台となっています。ただ、これらには不十分な点もあり、第二次世界大戦の勃発を止めることはできなかったことも事実です。しかし、その意義と限界を今日あらためて検討することは、現代の平和を考える上で極めて重要であると思われます。

 本講座では、第一次世界大戦とその後の戦争と平和をめぐる議論が、現在の私たちの思想や運動、そして国際秩序にもたらす影響について分析します。さらに世界大戦という「負の歴史」を平和と和解に生かすための道筋を考えます。

 

■日時:11月21日(金)28日(金)12月5日(金)9日(火)19日(金) 全5回
18:30~20:30 (講義90分、質疑応答30分)

 

■会場:広島市まちづくり市民交流プラザ 北棟6階 マルチメディアスタジオ
(広島市中区袋町6番36号 電話082-545-3911)

 

■講義内容等
(1) 11/21(金)吉川 元「現代の起点としての第一次世界大戦」
第一次世界大戦をきっかけに今日に至る五つの平和の処方が確立されました。軍縮平和、相互理解の平和、戦争違法化の平和、経済国際主義の平和、集団安全保障の平和、の五つの平和の起源を探ります。同時に、パリ講和会議における、少数民族保護問題と人種平等原則問題の審議は当時の平和観を如実に反映するものです。前者は国際保護制度が確立されましたが長続きしませんでした。一方、人種平等の国際原則は実現しませんでした。なぜ、人種平等原則は合意に至らなかったのでしょう。なぜ少数民族保護の国際制度は、その後、機能不全に陥ったのでしょう。国際政治の歴史を探訪します。

 

(2) 11/28(金)河上 暁弘「不戦条約と日本国憲法第9条」
1928年に成立した不戦条約は、戦争を一般的に違法化した世界初の条約として知られます。この条約成立の背景に、侵略・自衛・制裁を区別することなくあらゆる戦争の違法化することや法と裁判による国際紛争解決制度を完備することを求めた「戦争非合法化(outlawry of war)」の思想と運動があります。今回は、これが不戦条約や日本国憲法第9条成立に与えた影響やその意義を振り返る中から、現代の平和への課題について考えたいと思います。

 

(3) 12/5(金)篠原 初枝「国際連盟と20世紀の平和」
人類初の総力戦といわれた第一次世界大戦の経験を経て、欧米の人々の間には平和への機運が高まり、最初の国際組織である国際連盟がうまれました。1919年の視点から、当時の人びとが望んだ平和を築くための制度設計は、現在とは異なるものであったのでしょうか。この講義ではそのような問題意識にたって、何が現在まで受け継がれ、また逆に、何がその後の経験からして「失敗」であったのかを考えてみたいと思います。

 

(4) 12/9(火)竹本 真希子「第一次世界大戦後のドイツにおける平和運動」
第一次世界大戦の敗戦国ドイツでは共和国が誕生し、民主主義や国際協調を掲げた反戦平和運動が活発に行われました。しかしその一方で、戦後処理に対する人々の不満は大きく、平和運動はその後のナチによる独裁や第二次世界大戦の勃発を防ぐことはできませんでした。1920年代の平和運動はなぜ「失敗」したのか、第二次世界大戦後の東西両ドイツの運動への連続と断絶も含めて振り返り、ドイツ史のなかでの平和運動のあり方を探ります。

 

(5) 12/19(金)剣持 久木「第一次世界大戦をどう伝えるか――独仏の例を中心として」
フランスとドイツの間では、かつては大戦の開戦原因などの解釈をめぐって大きな相違がありましたが、現在ではほぼコンセンサスが存在しています。両国の間では共同の研究書、博物館さらには歴史教科書までもが実現しているのです。歴史認識をめぐって鋭く対立している東アジアにおいては、不倶戴天の敵同士とまで言われた仏独の、歴史認識をめぐる和解の状況を理解することは、大いに参考になるはずです。

 

■講師紹介

吉川 元 キッカワ・ゲン / 広島市立大学広島平和研究所長・教授                                
  1951年、広島市生まれ。一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学、博士(法学)。広島修道大学法学部教授、ロンドン大学LSE国際関係研究センター研究員、神戸大学法学部教授、上智大学大学院教授を経て、2013年より現職。単著に『民族自決の果てに――マイノリティをめぐる国際安全保障』(有信堂高文社、2009年)、 『国際安全保障論――戦争と平和、そして人間の安全保障の軌跡』(有斐閣、2007年)、共編著に『グローバル・ガヴァナンス論』(ともに法律文化社、2014年)などがある。


河上 暁弘 カワカミ・アキヒロ / 広島市立大学広島平和研究所准教授

 富山県富山市生まれ。中央大学法学部政治学科卒業、中央大学大学院法学研究科公法専攻博士前期課程修了、専修大学大学院法学研究科公法学専攻博士後期課程修了、博士(法学)。中央大学人文科学研究所客員研究員、明星大学人文学部非常勤講師等を経て、2008年4月より広島市立大学広島平和研究所講師、2014年4月より現職。専門は憲法学。著書(単著)として、『平和と市民自治の憲法理論』(敬文堂、2012年)、『日本国憲法第9条成立の思想的淵源の研究』(専修大学出版局、2006年)がある。


篠原 初枝 シノハラ・ハツエ / 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授                             
  1959年、東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業、シカゴ大学歴史学部、PhD取得。恵泉女学園大学助教授、明治学院大学国際学部助教授、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科助教授等を経て、2004年より現職。専門は国際関係論、国際関係史。主な著作として、単著に『国際連盟』(中央公論新社、2010年)、『戦争の法から平和の法へ』(東京大学出版会、2003年)、共著に「国際連盟外交――ヨーロッパ国際政治と日本」、『日本の外交』第1巻(岩波書店、2013年)などがある。


竹本 真希子 タケモト・マキコ / 広島市立大学広島平和研究所講師                                

 1971年、茨城県生まれ。専修大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。ドイツ・オルデンブルク市カール・フォン・オシエツキー大学政治学博士。専修大学大学院社会知性開発研究センター・歴史学研究センター任期制助手を経て、2005年に広島市立大学広島平和研究所助手に着任。2008年より現職。専門はドイツ近現代史、平和運動・平和思想史。主な研究業績に「ヴァイマル共和国期の急進的平和主義者にとっての軍縮と平和――『ヴェルトビューネ』の記事から」(『専修史学』第56号、2014年)など。


剣持 久木 ケンモチ・ヒサキ / 静岡県立大学国際関係学部教授

 1961年、東京都生まれ。上智大学大学院文学研究科史学専攻博士後期課程単位取得退学。学術振興会特別研究員、名城大学商学部講師、経営学部助教授、静岡県立大学国際関係学部准教授を経て、2013年4月より現職。専門はフランス現代史。著書に『歴史認識共有の地平――独仏共通教科書と東アジア』(明石書店、2009年)、『記憶の中のファシズム――火の十字団とフランス現代史』(講談社、2008年)、訳書に『仏独共同通史 第一次世界大戦』(岩波書店、2012年)など。

(敬称略)