広島平和研究所

1998年7月9日 開設記念シンポジウム

世界における軍縮問題──21世紀に向けて

 

広島平和研究所は開設を記念して1998年7月9日、「世界における軍縮問題──21世紀に向けて」をテーマに公開シンポジウムを広島国際会議場で開催した。モデレーターを務めた明石所長(当時)のほか、専門家四人が今年5月にインド、パキスタンが行った核実験をはじめ、兵器用プルトニウムの処理、小火器の蔓延化など核拡散、軍縮をめぐる様々な問題点、課題を指摘。理想主義ではない現実的、かつ段階的な問題解決の重要性を強調した。ディスカッションではまた、唯一の被爆国である日本政府や非政府組織(NGO)についても意見が出され、積極的な役割を期待する声が相次いだ。


  報告者:

     明石 康(広島平和研究所所長)
     スヴェッレ・ロードゴール氏(ノルウェー国際問題研究所長)
     マイケル・クレポン氏(ヘンリー・スチムソン・センター所長)
     田中 義具氏(財団法人ラヂオプレス理事長)
     今井 隆吉氏(杏林大学教授)

  パネルディスカッション・質疑応答




明石 康(広島平和研究所長)

 

(発言要旨) 国際関係での大国とか小国のバランス、力関係とか、国の威信とか地位を気にかけることは、経済、情報の流れが国境の垣根を越えて行われるようになった現在、我々多くにとってはあまり意味がないことだと考えられていたが、インドにとっては大事だった。また、パキスタンにとっては貧しい国民の生活水準向上よりも、核兵器をもつことによる安全保障が大事であるという選択があったことを心に留めておく必要があるだろう。核の実戦配備を止めさせる、または望まない核戦争が偶発的におきてしまうことを防止することが急務だ。カシミールのような厳しい紛争の根をつむ努力も続けないといけない。国際的にも大国と小国との地位とか特権の問題、安保理事会の構成とか、そういう格差の是正に努めることも急務であろう。世界各地、特に北東アジアとか中東地域では非常に強い相互不信が国と国との間で残っている。そういうことに取り組むことも核の拡散を食い止め、核軍縮をスピードアップすることに貢献するだろう。NPT、CTBTからなる現在の体制をどう改善し、どう強化するかということも大きな宿題だ。NPTは現存する五つの核保有国とそうでない国を峻別する不平等条約だ。だからといって、なければ核は無制限に広がっていくかもしれない。だとすれば、これをどう改善していけるのか。核廃絶への道程としての核軍縮の道が具体的にどうあるべきか、我々は何をすべきか。インド、パキスタンの核実験を契機として、我々は核の問題に関する大きな危機に当面すると同時に真剣にその対策を考え、行動に移すいい機会でもあろう。




スヴェッレ・ロードゴール氏

(発言要旨) インド、パキスタンをNPTに組み入れようというのは時間の無駄であり、現実的な目標としては南アジアにおける核競争を可能な限り安定化させるしかない。他方、NPTを骨抜きにしないということが重要だ。これはつまり第六条を実施するということだ。これには実験の禁止、核兵器級の物質の生産をやめるということ、非保有国の安全を保障するという三つの具体的な措置が伴う。次回の国連軍縮特別総会では、核兵器について警戒体制から解くこと、インド、パキスタンがCTBTに署名するようにもっていくことの二つの進展が見られるべきだ。実際の内戦では主に小火器が殺戮に使われている現実もあり、開発援助を使うことで紛争の防止、予防的な措置を進めていくことも必要だ。西アフリカでは小火器の輸出入、また製造に関してモラトリアムを宣言しようとしている。兵器輸出国との対話も始まっており、ほかの地域に広がることを期待している。武器の開発については民生用からの技術転換もあり、だれの手にも入る可能性が出てきた。テロリストのように価値観を破壊しようとする者に対しても目を向けていかなくてはならない。安全保障、軍縮問題に必要な項目はすべてそろっているといえる。

 

(略歴) オスロ大研究員、ストックホルム国際平和研究所欧州軍縮研究室長、ジュネーブの国連軍縮研究所長を経て現在、ノルウェー国際問題研究所(オスロ)所長。国連軍縮諮問委員会委員。




講演会

 

被爆60周年を記念して、シンポジウムに先立ち、参加パネリストによる講演会も開催しました。

講演会の内容は報告書のPDFファイル(後半45~78ページ)でご覧いただけます。

 

講演会A

マイケル・クレポン氏

 

(発言要旨) 目の前に横たわっている問題に近道はない。政治的にどのような状況があるか見極め、核の危険を減らす前に立ちはだかる政治状況を変えていかなくてはならない。そのためには五つの条件がある。第一に、核兵器が使えるという認識を減らしていくこと。核兵器の軍事的有効性を減らしていかなければいけない。第二に、米ロ関係をさらに改善する状況を確保していかなくてはならない。緊密な協力関係を打ち立てていかなくては軍縮もうまくいかない。三つ目は国連安保理の五カ国が緊密な協力関係をもたなくてはならない。米ロの兵器削減交渉のある段階で五カ国の協力が必要になってくることが考えられるからだ。四つ目は、核不拡散条約を強化すること、そして条約の体制を各国が遵守する体制を作っていくこと。五つ目は、地域紛争の解決に協力していくこと。地域紛争の解決なくしては核兵器削減という点でこれ以上の進展をみることは難しくなる。核廃絶のタイムテーブルを示すという従来の考えを繰り返すと基本的なパートナーシップを損なう。我々は課題はあるが進歩も見せたということを認識し、段階的に危険な核兵器をなくしていくことが大切だ。NPT、CTBT、輸出の統制、条約に関する話し合い、量を減らし廃絶につなげていくこと。こういったことが煉瓦のように基礎をなすと考える。

 

(略歴) 米国上院外交委員会や国連事務次長(軍縮問題担当)の顧問を経て1988年、米・ワシントンにシンクタンク「ヘンリー・スチムソン・センター」を設立。所長として国内外の安全保障問題について、「理想的目標に向けての現実過程」を重視した研究や政策提言を行っている。

 


 

田中義具氏

(発言要旨) 核実験をしたことによって、インド、パキスタンがCTBTに加盟する客観的な条件は逆に整った。核実験によって安全保障の環境が改善したかというとかえって悪化した。紛争の種を抱える両国が核兵器を持ったということは、南アジアにおける状況はますます不安定で危険な状況に陥ったということである。それを安定化させようとすれば、その第一歩としてまずCTBTに入って今後核実験はしないと明確にすることが両国の信頼醸成の第一歩になる。NPTと違って核保有国も非保有国も同じ義務を重ねている平等条約であり、入ることによって国の威信を失うことにはならないわけで、むしろ中国やアメリカ、ロシアと同じ立場であるから、ある意味で威信を高めるということにもなる。国内事情で機が熟した措置がとれないということであれば、厳しい制裁措置をとられてもある程度やむをえない。そういう措置がとられる中でインド、パキスタンの国民が考え直して、そういうことに協力的な政府を選ぶまで待つこともやむを得ないかもしれない。

 

(略歴) 外務省入省後、欧亜局審議官、シドニー総領事を経て、バングラデシュ、軍縮会議日本政府代表部、ハンガリーの各大使を歴任した。(財)ラヂオプレス理事長。

 


 

今井隆吉氏

  

(発言要旨) 核を持っている国はわかっているだけでもいろんな段階であるし、決してみんな同じではない。従ってそれぞれの国が自分の国の核をいかに有効に政治的に使おうとしているかという考え方になれば、それぞれ思惑が違うし、時によって言うことが違うし、いろんな形になるのはやむを得ない。私はNPTの無期限延長に反対だったが、その一つの現われがすでに出てきているのであって、五カ国は1967年1月1日という日付でもって固定してあるから動かしようがなくて、ほかの状態に対応できない硬直的な枠を作ってしまっている。それに対してCTBTはまだあいまいなところがあり、CTBTに入ってNPTに入っていないからといって何かするというのは考えにくい状態になってきている。今のところの最善とは言わないが、一つの逃げ道としては何とかしてCTBTにインド、パキスタンを入れてしまうこと、あるいは入りたがっているなら応援して入れてしまうことが今の事態を収める一つの方法だと思う。

 

(略歴) 朝日新聞記者から日本原子力発電(株)技術部長を経て、クウェート、軍縮会議日本政府代表部、メキシコの各大使を歴任した。原子力委員会参与、世界平和研究所理事、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)理事。杏林大学教授

 


 

パネルディスカッション・質疑応答

 

明石:ある程度緊張が緩和されないと本格的な軍縮に踏み切る国はないし、大きな軍備が存在する以上安全を感じる国もない。このジレンマとパラドックスを解決するためには、軍縮の面でも安全保障の面でも、地域紛争解決の面でも、並行的に前進するという道しかない。日本は核軍縮達成のために何をすればいいのか、何が出来るのか。
また、NGOの役割を強調したが、対人地雷の時のようにうまく進むものだろうか。

 

クレポン:核軍縮を推進するにあたっては国連の総会において進めるべきで、そのような日本の動きを歓迎する。日本はどのようにして軍縮会議を生き返らせるかということに関して、また、どのような政治的状況が整えば段階的な形でもって軍縮、軍備削減が出来るかということについて様々なアイデアを提供することが出来る。日本のNGOもこのようなプロセスを推進する役割を担うことができる。NGOは今日、会議を開いて論文を出すだけでは十分でなく、自ら研修に、人材育成に取り組まなくてはならない。そして自分たちが到達した結論を実践していくことが必要だ。

 

ロードゴール:キャンベラ委員会のその後の活動がある。国連の次の軍縮会議でそれを取り上げ、議題を設定するための小委員会に参加することだ。湾岸地域の安全保障、また軍備管理の問題について日本は関わることができる。離れた地域からの介入が歓迎されるからだ。また、似たような考えを持つ政府とNGOが一緒になって事を進めるということが重要だ。NGOはとかくスケジュールを決めて進めようとするが、政府が一歩ひいてしまうせいかあまり有益ではない。漸進的にやっていくことで連帯を築くことが出来る。その連帯そのものが核軍縮に結びついていくと思う。これまで核軍縮というと核兵器、また運搬手段ということで話を進めてきたわけだが、プルトニウムが核弾頭から外された後も搭載されていた時の状態で保管され、備蓄されているという問題がある。IAEAでは国際的にプルトニウムを管理する体制を検討しているが、日本には強力な原子力産業があり、プルトニウムの再処理が行われており、こういった問題の解決に貢献することが出来る。国連の武器登録制度を核兵器にも広げていくことが重要だ。

 

質問:対人地雷禁止条約が出来たが、それを核兵器にアナロジーするのは可能か。

 

田中:地雷の問題もジュネーブの軍縮会議で激しい議論が行われた。防衛という点で国の死活利益に関係すると考えていた国はいくつもあったが、それにもかかわらず世論の動きの中で規制されていった。非常に違う兵器ではあるが、対人地雷の禁止に成功した要素は核軍縮を推進していく上でもプラスになる。

 

クレポン:広島がインドに送った代表団はインド国内で様々な問題を提起した。これがすばらしい役割を果たしたと思う。核問題について被爆地として世界各国に問題提起をしていかなくてはならない。広島、長崎は今後もこの努力を続けてほしい。

 

明石:この集まりに終わるのではなく、これを一つの起点として我々は多方面に粘り強い努力を続けていかなくてはいけないと思う。現状をみて嘆いたり、絶望的になるのは簡単だが、我々は機会をとらえ、一自治体の運動に留めることなく、世界のいろんな有志の人々、有志の国々と携えて新しい国際的な流れを作っていくことが必要であり、決して不可能なことではない。熱心にご参加いただきありがとうございました。